コドン組成に基づくBLSOM解析 の変更点


[[研究内容紹介]]
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*コドン組成に基づくBLSOM解析 [#h8b6838e]
 遺伝子発現の翻訳過程において、mRNAの3塩基を単位とした配列情報 (コドン) が一つのアミノ酸に対応付けられることにより蛋白質が合成される。コドンとアミノ酸との対応は、多対一の関係がある。このような同一のアミノ酸と対応するコドンを同義コドンと呼ぶ。原核生物および真核生物の両方における同義コドンの選択は、生物学的意味に乏しいと考えられていたが、多数の遺伝子の塩基配列が決定されるにつれ、予想外の規則性がコドン選択に見い出されてきた。池村淑道教授 (長浜バイオ大学) は、微生物のコドン組成は細胞内tRNA量と関係することを見い出し、生産量の高い遺伝子ほど、コドン組成の偏りが顕著なことを報告されてきた(Ikemura, 1981a, 1982b, 1985)。遺伝情報において、同義コドンのどれが使用されてもアミノ酸を指定する上では等価で、タンパク質の機能に影響を及ぼすことはない。従って、同義コドン間の選択はtRNA量に適合したコドンを使用する方が、翻訳の効率や精度を上げることが判明しており、医・薬学や工学的に有用な遺伝子を人工合成する際の指針となっている ([[遺伝子発現量予測>遺伝子発現量予測]])。
 遺伝子発現の翻訳過程において、mRNAの3塩基を単位とした配列情報 (コドン) が一つのアミノ酸に対応付けられることにより蛋白質が合成される。コドンとアミノ酸との対応は、多対一の関係がある。このような同一のアミノ酸と対応するコドンを同義コドンと呼ぶ。原核生物および真核生物の両方における同義コドンの選択は、生物学的意味に乏しいと考えられていたが、多数の遺伝子の塩基配列が決定されるにつれ、予想外の規則性がコドン選択に見い出されてきた。池村淑道教授 (長浜バイオ大学) は、微生物のコドン組成は細胞内tRNA量と関係することを見い出し、生産量の高い遺伝子ほど、コドン組成の偏りが顕著なことを報告された(Ikemura, 1981a, 1982b, 1985)。遺伝情報において、同義コドンのどれが使用されてもアミノ酸を指定する上では等価で、タンパク質の機能に影響を及ぼすことはない。従って、同義コドン間の選択はtRNA量に適合したコドンを使用する方が、翻訳の効率や精度を上げることが判明しており、医・薬学や工学的に有用な遺伝子を人工合成する際の指針となっている ([[遺伝子発現量予測>遺伝子発現量予測]])。
 我々は、このコドン組成を使用し、29種のバクテリア由来の60,000の遺伝子を用いて自己組織化法を行うことにより遺伝子を分類し種固有のコドン組成特性および他のバクテリアとの関係を把握することを試みた ([[Kanaya et al., 2001>http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11591475]])。その結果、コドン組成の生物種による特徴を反映して、精度高くクラスタリング可能なことが判明した 。図1(a)は従来から一般的に用いられてきた主成分分析による遺伝子の分類結果であり、これを初期状態としてBLSOM解析を行った。図1(b)はBLSOMで得られた遺伝子の分類結果である。2種類以上の細菌の遺伝子が混在するメッシュは黒色で、1種類の細菌の遺伝子のみが存在するメッシュは細菌ごとに別色で示した。図(a)と図(b)を比べると、SOMにより、飛躍的に生物種別のクラスタリング能が高まっていることがわかる。クラスタリング結果より、解析に使用した29種間での各微生物種間の地図上での相対的な位置関係および各微生物がもつ個々の特徴をうかがい知ることが出来る。
 我々は、BLSOMより得られたクラスタリング結果を用いて、病原性大腸菌O157の外来性遺伝子の進化学的由来を推定した([[Kanaya et al., 2001>http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11591475]])。水平移動した遺伝子のコドン組成は、その由来生物種側のコドン組成パターンを保持している例が多く、病原遺伝子類の水平伝播の過程や進化的由来についての基礎知見が得られる。図1(c)に示すように、BLSOMの持つ高いクラスタリング能を用いて広範囲の生物種を対象に微生物ゲノム間での遺伝子の水平移動の全体像を明らかにするが可能だと考えられる。

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図1(a)は従来から一般的に用いられてきた主成分分析による遺伝子の分類結果であり、これを初期状態としてSOM解析を行った。(b)はSOMで得られた遺伝子の分類結果である。(c)はコドン組成における類似性に基づいた水平伝達の可能性のある遺伝子数である。