メタゲノム解析 の履歴ソース(No.1)

[[研究内容紹介]]

*多様な環境に生息する生物種の多様性と系統の解析 [#wd0ecfc3]
多様な環境に生息する多種類の生物種を対象にした、新しい視点でのゲノム解析技術が発展している。極限環境を含む多様な環境で生育する微生物類については、培養が困難な例が大半を占めている。これらは新規な遺伝子類を豊富に保有する可能性があり、注目を集めている。難培養性微生物を解析する新しい技術として、環境中で生育する生物群を含有する試料から直接的にゲノムDNAの混合物を抽出し、配列決定を行う技術が開発され、普及の兆しを見せている。しかしながら、得られた断片化配列の集合のみでは、その試料に存在する生物の種類、系統群、さらに、それらの新規性を推定することは困難である。
オリゴヌクレオチド頻度のみで断片配列の生物種による高精度な分類が可能であるというSOMの特徴に基づき、環境微生物ゲノムの多様性や新規性を推定するための新規な系統分類法、ならびに新規性の高い未知微生物ゲノムを効率的に探索する手法の開発を行っている。図1A の例では、約150種の細菌由来の総計220 Mbの配列を5 kbに断片化し、縮退させた4連塩基の出現頻度についてSOMマップを作成した。縮退とは、2本鎖DNA配列の相補性の影響を除去するために、相補的なオリゴヌクレオチド (例えば、AAAとTTT) を同一のものとみなすことを意味している (詳しくは、図3の説明を参照されたい)。1 kb程度の短い配列の場合、微生物の正しい系統群への分離能は、65%であったが、5 kbと配列長を長くすることにより、高い分離能(88%)が得られた。このように高精度な分離能が得られるという結果は、SOMを系統群推定に適用可能なことを示す。GenBankに登録されている生物種が未同定の配列で、三重大学の松井らが決定した反芻胃内でのゲノム配列(AB085236-AB085579)を用いて検証を行った(図1B)。図中矢印で示す2点に比較的多くの配列が分類されていた。一方は、古細菌の領域においてメタン生成菌が分類されている領域であり、他方は、δプロテオバクテリアの領域において硫酸塩還元菌が分類されている領域であった。これらは嫌気性菌であり、反芻胃由来の微生物であることと整合性がある。未同定生物種からの配列が、1kb程度であっても、既知生物由来の5kb配列で作成したSOMへマップすることで系統推定の確度が上昇することを確認している。rDNAに関してもSOM解析を行っており、より高い精度 (97%) で系統群への同定が可能であった。この方法では、PCRプライマーを設計することなくショットガンシーケンスより得られた配列で系統群推定が可能である。オリゴヌクレオチド組成のSOM解析について、我々の当初の予想をはるかに超えた有用性が示された。ゲノムDNA断片の混合試料を取得し、それらの塩基配列を決定することにより、活性汚泥槽、生ごみ分解系、汚染土壌修復環境系などの複合微生物系の研究において、新規で効率的な系統分類法を提供できる。